動作の速いインプラント
日本の医療費は、対GDP比で比較したほど下位の方にはならない。
その理由は単純なことで、日本は国民の所得水準が高いので、アメリカと比べれば対GDP比の医療費比率はずっと小さくなるが、一人あたりの医療費は比較的高めになるということだ。
その意味では、この一人あたりの医療費比較は、具体的な金額を知るには意味があるが、お互いの比較にはあまり意味がない。
費用の話をずっとしてきたが、もうひとつポイントになるのは医療の「成果」である。
つまり、比較的低い医療費でどんな成果を上げてきたかということだが、これはもう皆さんご存じのように、平均寿命は世界一であるし、最近WHO(世界保健機関)が打ち出した「健康寿命」という見方でも世界一だ。
健康寿命とはどういうものかというと、健康な状態だけをカウントする寿命だ。
極端な話、寝たきりの老人でも寿命が長いということがあるが、それは健康状態としてはよくないといえる。
そこで、健康状態のよくない例はカウントせず、健康な状態だけをカウントするというのが健康寿命の考え方である。
日本の医療の悪い点として、老人をベッドに縛りつけて寝たきりにしておくということがよくいわれた。
それならば、健康寿命は低くなるはずだが、実は健康寿命でも日本は世界一になっているのだ。
つまり、成果として寿命を考えた場合には、日本の成果は非常に高いということがいえる。
それ以外にもいくつか指標があり、たとえば5歳未満児の死亡率も世界で最も低い国のひとつだ(「世界子供白書2002」より)。
そこで、ちょっと視点を変えて、医師へのかかりやすさという面をみてみよう。
イギリスでは地域によって医師が一人決まっている。
つまり、ある州のこの地区はA先生と決まっていて、ここに住んでいる人は、原則としてA先生にかかることになっているのだ。
そのA先生を「かかりつけ医」というが、イギリスではその医師にかからないと専門の医師、たとえば日本でいう循環器の専門医とか脳外科の専門医には受診できない仕組みになっている。
もっと専門的な医師に診てもらいたいと思っても、最初にかかりつけ医にかからないと診てもらえない。
イギリスの仕組みにはそういうやっかいさがある。
一方、さきほど医療費が非常に高いと響いたアメリカはどうかというと、実はいろいろな問題がある。
医療費が高いのだから医師に自由にかかれるだろうと思うかもしれないが、実状はそうでもない。
アメリカの場合、高齢者や低所得者を除き日本のように国が運営している保険はない。
原則は民間の保険のみになる。
民間の保険では、おおざっぱな言い方だが、「高い保険料を払うとよい医療を受けられる」という仕組みになっているので、高い保険料を払っていない患者は、値段が高い医師を自由に受診することができない。
医師へのかかりやすさを専門用語で医師への「アクセス」というが、日本では、患者はどこの医師にでも自由にかかることができるので医師への「アクセス」はなかなか優れている。
日本は、世界でも非常に医師にかかりやすい国なのだ。
これはあたりまえのようだが、実は国によってはあたりまえではない。
医師に自由にかかれることを専門家は「フリーアクセス」と呼んで、日本の医療の大きな特徴と位置付けている。
つまり、日本では医療費はそれほど高くないが、「成果」と「アクセス」の2つはなかなかいい、といえる。
総論的には、日本の医療はまあまあレベルが高いということがいえそうだ。
しかし、そうはいっても現在いろいろな問題点が指摘されていることは否定できない。
そこで、これから医療のさまざまな側面を「治療費の経済学」という視点で、皆さんと考えていこうと思う。
患者側のコストと病院側の費用医療の費用を考えるにあたって、病院がもらうお金と患者が支払うお金には差がある。
もし、病院が治療に100万円かけたとしても、仮に自己負担がゼロの保険であれば患者の支払い額はゼロである。
サラリーマンの場合、支払い額は3割である。
さらに、日本では、高額医療費の負担制度があって、自己負担が1ヵ月に7万2300円(標準報酬月額が56万円以上の上位所得者は13万9800円)を超えた場合には、後でおおむねその額を上回った分の現金が支給される。
なお、標準報酬月額は9万8000円から98万円までの39等級に分かれている。
計算をしやすくするために、等級をつけており、給与とほぼ同じと思ってもかまわない。
さらに医療費控除(税金が戻ってくる仕組み)もあるが、この詳しい仕組みは本書の目的とは異なるので、今回は特に触れない。
なおこの本では、以下コストといった場合には患者側の支払う額(自己負担)を、「費用」といった場合には病院が必要なお金(診断・治療などにかかる饗用)を指すことにする。
薬剤代は増えているのか「日本における薬剤使用において何が特徴か」というと、「使われている量が多い」との指摘がある。
確かに、山のように薬剤をもらっている高齢者の姿を病院でみかけることがある。
少し検証してみよう。
薬剤市場の大きさでみると日本は世界で第2位である。
圧倒的に薬剤市場が大きいのはアメリカで、2000年のデータではアメリカは世界全体の薬剤の売り上げの43%を占めている。
2番目が、ひとつの国でみれば日本で、15.9%である。
ヨーロッパは、全体で24.1%という数字で日本より大きいが、ひとつひとつの国でみると、日本よりずっと小さい。
つまり薬剤の使い方でみても、で検証した医療費そのものの高いアメリカが突出して多いという状況にある。
一方、日本はどうか。
で医療費が30兆円と指摘したが、薬剤に使っているお金は、同じく厚生労働省の調べによると6兆円強だ。
医療費自体は増えているが、薬剤代はあまり変わっていないのが現状である。
一人あたりの薬剤代を考えても、アメリカは日本の人口の約2倍なので、割合から判断すると、一人あたりの薬剤代もアメリカの方が高額といえる。
「薬漬け医療」といわれるけれど日本人は薬が好きだといわれているし、一方では医療が薬漬けではないかという批判もある。
これは後の話にもちょっと関係するが、確かに日本人は薬剤の数をたくさんもらう傾向にある。
ただ、だからといって、先に述べたように、薬剤代というのは年々伸びているわけでもないし、世界的にみて特に多いというわけでもない。
入院で使う薬剤と、外来で使う薬剤の2つになるが、最近は外来にも病院の中で処方される薬剤と、調剤薬局(院外薬局)、つまり病院外の薬局で処方される薬剤がある。
したがって、この3種類、つまり「入院」と「病院外来」と「調剤薬局」の3つの処方ルートがあるのだ。
調剤薬局で処方される割合は年々増えてきている。
1998年には約20%だった調剤薬局費が、2002年では30%程度に増えてきている。
それと並行して、病院外来で使われる薬剤の額は減っている。
入院で使う薬剤にはほとんど変化がない。
よくされる質問に「受診するたびにもらう薬剤がすごく多い」というものがある。
まずひとつのポイントとして、日本の場合、必ずしも医師で処方してもらわなくてもいい薬剤、ビタミン剤とか、Sのような貼り薬といった薬剤を薬局ではなく病院でもらう傾向にあることがあげられる。
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